もしくは施療院に送らるべきか」に傍点]、その決定が問題なり[#「その決定が問題なり」に傍点]。」
八 酔後の哲学
前に述べたあの上院議員は悧巧《りこう》な男で、自分の途に当たるあらゆるもの、いわゆる良心、信仰、正義、義務などと称せらるる障害物を意に介せずして、一直線におのれの道を進んできた男であった。彼はまっすぐに目的に向かって進み、昇進と利益との途中において一度も躓《つまず》かなかったのである。もと検事であって、成功して性質が柔らぎ、決して悪意のある男ではなかった。自分の子供や婿や親戚《しんせき》やまたは朋友《ほうゆう》などにさえ、できるだけのわずかな世話はしてやった。いい方面やいい機会や不意の利得などを巧みに世の中からつかんだ。その他のことはばかげてると彼は思っていた。才気があり、またかなり学問もあって、エピクロスの弟子《でし》であると自ら思っていたが、おそらくビゴール・ルブランの描いた人物くらいのものに過ぎなかったろう。無窮とか永久とかいうことや、「司教輩の児戯」などについては、よく愉快そうに冷笑した。時としては、じっと聞いているミリエル氏の前でさえ、愛すべきおご
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