れのことで罪を犯すことのないようにと、神を祈ればよいのだ。」
もとよりかかる変わった事件は彼の生涯《しょうがい》においてきわめて稀《まれ》であった。われわれはただわれわれの知るところだけを物語るのである。普通彼はいつも同じ時間に同じようなことをしつつ生涯を過ごしていたのである。その一年の一月《ひとつき》もその一日の一時間と変わりはなかった。
アンブロン大会堂の「宝」がどうなったかについては、それを尋ねられるとわれわれは当惑するのである。きわめてりっぱなもの、非常に心をそそるもの、不幸な人たちのために盗むによいものがそこにあった。盗むとしてもそれは実際既にもう盗まれてあったのである。仕事はもう半ば遂げられていた。ただ盗みの方面を変えることだけが残っていた、そしてただ貧しい人々の方へ少しばかり進ませることだけが。といってもわれわれはこのことについては何にも言明すまい。ただたぶんこの事がらに関係がありそうに思わるるかなり曖昧《あいまい》な手記が、司教の書き物のうちに見いだされた。次のような文句である。「それは大会堂に戻さるべきかもしくは施療院に送らるべきか[#「それは大会堂に戻さるべきか
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