またその途中でも、人々は出てきて不思議そうに彼をながめた。彼はシャストラルの主任司祭の家に、彼を待っていたバティスティーヌ嬢とマグロアールとを見い出した。彼は妹に言った。「ごらん、私が言うとおりではなかったか。憐《あわ》れな牧師は何も持たずにあの憐れな山中の人たちの所へ行った、そしてたくさんのものを手にして帰ってきた。私はただ神に対する信頼の念だけを持って行ったが、大会堂の宝を持ち返ってきた。」
その晩床につく前に彼はなお言った。「決して盗賊や殺人者をも恐れてはいけない。それらは外部の危険で小さなものである。われわれはわれわれ自身を恐れなければならない。偏見は盗賊である。悪徳は殺人者である。大きな危険はわれわれの内部にある。われわれの頭《こうべ》や財布を脅かすものは何でもない。われわれの心霊を脅かすもののことだけを考えればよいのだ。」
それから彼は妹の方へふり向いた。「ねえお前、決して牧師の方から隣人に向かって用心をする必要はない。隣人がなすことは神の許されるところである。危険が身に迫ってると思う時には、ただ神を祈るだけのことだ。われわれ自身のためにではない、われわれの兄弟がわれわ
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