ょう。」
人々は付近の会堂をさがし歩いた。が付近の教区のすべてのりっぱなものを集めても、大会堂の一人の合唱隊長の適宜な衣装にも足りなかった。
この当惑の最中に、二人の見知らぬ騎馬の男が大きな一つの箱を持ってきて、司教へと言って司祭の家に置き、そのまま立ち去ってしまった。箱を開いてみると中には、金襴《きんらん》の法衣、金剛石をちりばめた司教の冠、大司教の十字架、見事な笏杖《しゃくじょう》、その他一月前にアンブロンのノートル・ダーム寺院から盗まれたすべての司教服がはいっていた。箱の中に一枚の紙があって、その上に次の語が誌《しる》してあった。「クラヴァットよりビヤンヴニュ閣下へ[#「クラヴァットよりビヤンヴニュ閣下へ」に傍点]。」
「だから、どうにかなるでしょうと私が申したのです!」と司教は言った。それから彼はほほえみながらつけ加えた。「司祭の白衣で満足する者に、神は大司教の法衣を下されます。」
「閣下、」と司祭は頭を振り立てながらほほえんでつぶやいた、「神様か――または悪魔か。」
司教は司祭をじっとながめた、そしておごそかに言った。「神です。」
司教がシャストラルに帰っていった時、
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