輻輳《ふくそう》していたので、裁判長はその一日のうちに簡単な短い二つの事件を選んだのだった。まず児殺しの事件から初めて、こんどは、あの徒刑囚、再犯者、「古狸」の方の番になった。その男は林檎《りんご》を盗んだのである。しかしそれは証拠不十分らしかった。がかえってその男は一度ツーロンの徒刑場にはいっていたという証拠が上がった。事件は険悪になった。本人の尋問と証人の供述とは済んだ。しかしなお弁護士の弁論と検事の論告とが残っている。夜半にならなければ終結しないに違いない。その男はたぶん刑に処せられるだろう。検事は賢明な人で、決して被告を射外した[#「射外した」に傍点]ことがなく、また少しは詩も作れる才人である。
法廷の室に通ずる扉《とびら》の所に一人の守衛が立っていた。彼はその守衛に尋ねた。
「この扉は間もなく開かれますか。」
「いや開きません。」と守衛は答えた。
「え! 開廷になっても開かないのですか。今裁判は休憩になってるのではないですか。」
「裁判は今また初まったところです。」と守衛は答えた。
「しかし扉《とびら》は開かれません。」
「なぜです。」
「中は満員ですから。」
「何ですって
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