それは古い子守歌だった。昔ファンティーヌはそれを歌って小さなコゼットを寝かしつけた。けれど子供に別れて五年この方、一度も頭に浮かばなかったのである。今それを彼女は、修道女をも泣かせるほどの悲しい声とやさしい調子とで歌った。厳格なことにのみなれていたサンプリス修道女も、しだいに涙が目に浮かんでくるのを感じた。
大時計は六時を報じた。ファンティーヌはそれを聞かなかったようだった。彼女はもう周囲のことには何にも注意を向けていないらしかった。
サンプリス修道女は雑仕婦をやって、市長は帰ってこられたか、そしてすぐに病舎にこられるかどうかを、工場の門番の婆さんの所に尋ねさした。雑仕婦は二、三分して帰ってきた。
ファンティーヌはやはり身動きもせず、何か自分の考えにふけってるらしかった。
雑仕婦は低い声でサンプリス修道女に語った。市長はこの寒さに朝六時前に、白い馬に引かせた小馬車で出かけられた、一人の御者も連れないで。どちらの方へ行かれたかだれも知らない。アラスへ行く道の方へ曲がられたのを見たという者もあり、パリーへ行く道で出会ったという者もある。出かけられる時もいつものとおりもの柔らかだった
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