《だんな》様はどんなものでも利用なされますのに、これはまた地面をむだにしていらっしゃいます。花よりはサラダでもお植えなされたがよろしいでしょうに。」司教はそれに答えた。「マグロアール、それは考え違いだよ。美しいものは有用なものと同じように役に立つものだ。」それからちょっと言葉を切って、またつけ加えた。「いやおそらくいっそう役に立つだろう。」
三つか四つの花壇でできているこの第四の区画は、ほとんど書籍と同じくらいに司教の心をとらえていた。木を切ったり草を取ったり、あちこちに地を掘って種をまいたりしながら、喜んでそこに一、二時間を過した。彼は園芸家のように、虫を敵視することがなかった。その上何ら植物学に対して私見を有しなかった。類別や分類などを知らなかった。また少しもトゥールヌフォールの方法と自然栽培法とのいずれかを選ぶこともせず、胞果と子葉《しよう》とのいずれかを取ることもなく、ヂュシユーとリンネとのいずれかの説を取るということもしなかった。彼は植物を研究することもせず、ただ花を愛した。学者をもはなはだ尊敬していたが、なおいっそう無学者を尊敬していた。そして決してこの両者に対する尊敬を
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