食事することはなかなかやめ難いものである。」
 この銀の食器に加うるに、彼がある大伯母《おおおば》の遺産から所持している、二つの大きな銀の燭台《しょくだい》があった。それには二本の蝋燭《ろうそく》が立てられてたいてい司教の暖炉の上に置かれていた。夕食に客がある場合には、マグロアールは両方の蝋燭に火をともして、その二つの燭台を食卓の上に置いた。
 司教の室のうちには、寝台の枕頭《まくらもと》に小さな戸棚が一つあった。マグロアールはその中に毎晩六組みの銀の食器と一本の大きな匙とをしまった。戸棚の鍵《かぎ》はいつもつけっ放しであったことは言っておかなければならない。
 後園は前述のかなり見すぼらしい建物で、いくらかそこなわれていたが、池のまわりに放射している十字に交わった四つの道がついていた。またも一つの道は、囲いの白壁に沿ってそのまわりに走っていた。それらの道は黄楊樹《こうようじゅ》でかこんだ四つの方形を作っていた。その三つにマグロアールは野菜を栽培し、残った一つに司教は草花を植えていた。またそこここに数本の果樹があった。
 マグロアールは一度、一種の穏やかな皮肉の調子で彼に言った。「旦那
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