にそれは過ぎ去った。そして彼は自ら言った、「まてよ! まてよ!」彼はその最初の殊勝な考えをおさえつけ、その悲壮な行ないの前にたじろいだ。
もとより、あの司教の神聖なる言葉をきいた後、長い間の悔悛《かいしゅん》と克己との後、みごとにはじめられた贖罪《しょくざい》の生活の最中に、かくも恐ろしき事情に直面しても少しも躊躇《ちゅうちょ》することなく、底には天国がうち開いているその深淵《しんえん》に向かって同じ歩調でもって進み続けたならば、それはいかにりっぱなことであったろう。しかしいかにりっぱなことであったろうとはいえ、そうはゆかなかったのである。われわれは彼の魂のうちにいかなることが遂げられつつあったかを明らかにしなければならない。そしてわれわれはその魂のうちにあったことのみをしか語ることを得ない。まず第一に彼を駆ったところのものは、自己保存の本能であった。彼はにわかに考えをまとめ、感情をおし静め、大危険物たるジャヴェルがそこにいることを考え、恐怖のためにすべての決心を延ばし、おのれの取るべき道に対する考察を捨て、戦士が楯《たて》を拾い上げるようにおのれの冷静を回復した。
その一日の残り
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