のれの第一の義務は自己に対するものではないと思っているらしかった。
 しかしながら、こんどのようなことはいまだかつて彼に起こったことがなかったのである。われわれがここにその苦悩を述べつつあるこの不幸な人を支配していた二つの考えが、かくも激しく相争ったことはかつてなかったのである。ジャヴェルが書斎にはいってきて発した最初の言葉において、彼は早くも漠然《ばくぜん》としかし深くそれを感じた。地下深く埋めておいたあの名前が意外にも発せられた瞬間には、彼は唖然《あぜん》としておのれの運命の恐ろしくも不可思議なのに惘然《ぼうぜん》としてしまったかのようだった。そしてその呆然《ぼうぜん》たるうちに、動乱に先立つ一種の戦慄《せんりつ》を感じた。暴風雨の前の樫《かし》の木のごとく、襲撃の前の兵士のごとく、彼は身をかがめた。迅雷《じんらい》と電光とのみなぎった黒影が頭上をおおうのを感じた。ジャヴェルの言葉を聞きながら彼には、そこにかけつけ、自ら名乗っていで、シャンマティユーを牢《ろう》から出して自らそこにはいろうという考えが、第一に浮かんだ。それは肉体を生きながら刻むほどの苦しいたえ難いことであった。が次
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