ンティーヌは答えた。「それどころか、恐ろしい病気にかかってる私《あたし》の子供もね、助けがなくて死ぬようなこともないでしょう。これで安心だわ。」
 そう言いながら彼女は、テーブルの上に光っているナポレオン金貨二つを婆さんに指《さ》し示した。
「あらまあ!」とマルグリットは言った。「大変なお金! どこからそんな金貨を手に入れたの。」
「手にはいったのよ。」とファンティーヌは答えた。
 と同時に彼女はほほえんだ。蝋燭《ろうそく》の光は彼女の顔を照らしていた。それは血まみれの微笑だった。赤い唾液《だえき》が脣《くちびる》のはじに付いていて、口の中には暗い穴があいていた。
 二枚の歯は抜かれていた。
 彼女はその四十フランをモンフェルメイュに送った。
 がそれは、金を手に入れんためのテナルディエ夫婦の策略だったのである。コゼットは病気ではなかった。
 ファンティーヌは鏡を窓から投げ捨てた。もうよほど前から彼女は三階の室から、ただ※[#「金+饌のつくり」、第4水準2−91−37]《かきがね》の締まりだけの屋根裏の室に移っていた。天井と床《ゆか》とが角度をなしていて絶えず頭をぶっつけそうな屋根裏だ
前へ 次へ
全639ページ中401ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング