された。
 晩は八時半に妹とともに夕食をした。マグロアールが彼らのうしろに立って給仕をした。この上もなく粗末な食事であった。けれども司祭たちのだれかが食事につらなることがあると、マグロアールはその機を利用して、湖水で取れるいい魚類や山で取れるりっぱな鳥類などを閣下に食べさした。どの司祭もみなごちそうの口実になった。司教はなすままにさしていた。それをほかにしては、彼のいつもの食物はほとんどゆでた野菜と油の汁とだけだった。それで町ではこんなことが言われた、「司教は司祭の御馳走をしない時には[#「司教は司祭の御馳走をしない時には」に傍点]、トラピストの御馳走をする[#「トラピストの御馳走をする」に傍点]。」([#ここから割り注]訳者注 トラピストは極端な質素簡易な生活を主義とするトラップ派の信者[#ここで割り注終わり])
 夕食後に彼はバティスティーヌ嬢やマグロアールとともに三十分ばかり話をし、それから室に引っ込んで、紙片や二折本の余白などに物を書いた。彼は文ができ、またいくらか学者だった。彼はかなり珍しい書き物を五つ六つ残した。なかんずく創世記の一節「元始に神の霊水の上に漂いたりき[#「元
前へ 次へ
全639ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング