。
天気の時には二時ごろに家を出かけて、しばしば破屋《あばらや》に立ち寄ったりしながら、徒歩で田舎《いなか》やまたは町の方へ散歩した。一人で道を歩きながら、何か考えに沈み込み、目を伏せて長い杖《つえ》に身をささえ、綿のはいった暖い紫の絹|外套《がいとう》を着、紫の靴足袋《くつたび》と粗末な靴とをはき、三すみから三つの金モールの縒総《よりふさ》がたれてる平たい帽子をかぶっている彼の姿が、よく見られた。
彼が姿を現わす所はどこでも祭りのようであった。彼の入来は何かしら人を暖め、光明をもたらすがようだった。子供や老人は、ちょうど太陽に対するように司教に対して戸口へ出てきた。彼は人々を祝福し、人々は彼を祝福した。何か必要に迫られてる者には皆、人々が彼の家を教えてやった。
彼処《かしこ》此処《ここ》と彼は歩みを止めて、小さい男の子や女の子に話をし、母たちに笑顔を見せた。彼は金のある間は貧しい人々を訪れ、金がなくなれば富める人々を訪れた。
彼は長い間その法衣を着続けていて、それを人から知られることをあまり好まなかったので、紫の絹外套を着ずには決して町へ出かけなかった。夏には、少しそれに困ら
前へ
次へ
全639ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング