を刑罰[#「刑罰」に傍点]と呼び、中性ではない、そして人をして中立の地位に立つことを許さない。それを見る者は最も神秘な戦慄《せんりつ》を感ずる。あらゆる社会の問題はその疑問点をこの首切り刃のまわりに置く。断頭台は一の幻影である。それは一個の木組《きぐみ》ではない、一個の機械ではない、木材と鉄と綱とで作られた無生の仕掛けではない。それは言い知れぬ一種の陰惨な自発力を有する生物であるかのようである。あたかもその木組は物を見、その機械は物を聞き、その仕掛けは物を了解し、その木材やその鉄やその綱は物を欲するがようである。見る人の魂を投げこむ恐ろしい夢幻のうちに、断頭台は恐怖すべき姿を現わし、そこに行なわるることと絡《から》みつく。断頭台は刑執行人の共働者であり、人を呑《の》みつくし、肉を食い、血をすする。それは法官と大工とによって作られた一種の怪物である。おのれが与えたるすべての死より成るある恐るべき生に生きているらしい一つの悪鬼である。
ゆえに、その印象は深刻でまた恐るべきものであった。刑執行の翌日およびその後なお長い間、司教は心が圧倒せられたように見えた。あの最期の瞬間の激越な清朗さは消
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