モスの流れに浮かんだのと同じである。なお最後に一言を許せ。婦人諸君、君たちはアスパジアがいかなる女であったかを知っているか。彼女は女なる者が未だ魂を持たなかった時代にいたのであるが、彼女のみは一個の魂であった。薔薇《ばら》色と緋《ひ》色との色合いをした魂で、火よりもいっそう熱く、曙《あけぼの》よりもいっそう新鮮であった。アスパジアは女の両極を同時に有する女性であった。娼婦《しょうふ》にして女神であった。ソクラテスに加うるにマノン・レスコーであった。アスパジアは実に、プロメシュースに女が必要である場合には、その用をなすために作られたようなものであった。」
トロミエスは一度口を開けば容易に止まらなかったのであるが、その時ちょうど河岸で一頭の馬が倒れた。その事件のために、荷車と弁士とはにわかに止まった。それはボース産の牝馬で、年老いてやせて屠殺所《とさつじょ》に行くに相当したものだったが、きわめて重い荷車をひいていた。ボンバルダの家の前まで来ると、力つきて疲憊《ひはい》した馬は、もうそれ以上進もうとしなかった。そのためまわりに大勢の人が集まった。ののしり怒った馬車屋が、その時にふさわしい力
前へ
次へ
全639ページ中308ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング