」まだ毒殺者カスタンがやって来る前のことで、テート・ノアールの茶屋で朝食をすまし、大池の側の五点形の輪遊び場で一勝負し、ディオゼーヌの塔に上り、セーヴル橋で菓子を賭《か》けて球《たま》ころがしをし、プュトウで花を摘み、ヌイイーで芦笛《あしぶえ》を買い、いたる所でリンゴ菓子を食い、そしてすてきに愉快だった。
 若い女たちは、籠《かご》から出た小鳥のように騒ぎ回りさえずり回った。まったく夢中になっていた。時々男たちを軽くたたいた。人生の朝《あした》の酔いである! 愛すべき青春の年である! 蜻蛉《とんぼ》の翼は震える。おお、いかなる人にも覚えがあるはずである。藪《やぶ》の中を歩きながら、後《あと》について来る愛《いと》しい人の顔にかからないようにと木の枝を押し開いたことを。愛する女とともに、雨にぬれた坂道を笑いながらすべりおりたことを。その時女は君の手につかまって叫んだであろう、「ああ、ま新しの半靴なのに、こんなになってしまった!」
 ところですぐに言ってしまえば、その愉快な邪魔物の夕立ちは、この上きげんな一行には降らなかった。ただしファヴォリットは出がけに、もっともらしい年長者らしい調子で
前へ 次へ
全639ページ中273ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング