に行きます。私はそれを見かけました。帽子のリボンにさしている羽筆《ペン》でそれとわかるのです。読み方だけを教える人は一本の羽筆《ペン》、読み方と算術とを教える人は二本、読本と算術とラテン語とを教える人は三本つけています。そういう人は非常な学者です。何にも知らないということは何という恥辱でしょう! このクイラスの人々のようになさるがよろしいです。」
彼はかくまじめにまた慈父のように語り、実例がない場合には比喩《ひゆ》をこしらえ、言葉少なく形象豊かに、直接に要点をつくのであった。実に自ら確信し人を説服させるイエス・キリストの雄弁にも似寄っていた。
四 言葉にふさわしい行ない
司教の談話は懇切で愉快であった。自分のそばで生涯を送ってる二人の年老いた婦人にもよくわかるようなことばを使った。笑う時には小学児童のような笑い方をした。
マグロアールは彼を好んで大人《だいじん》様と呼んだ。ある日彼は椅子から立ち上がって、一冊の書物をさがしに図書室に行った。その書物は上方の書棚《しょだな》にあった。彼はかなり背が低い方だったからそれに届かなかった。「マグロアールや、」と彼は言った、「
前へ
次へ
全639ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング