なさい。そこは五十年に一度も鶯《うぐいす》の声が聞かれぬほどの荒涼たる地方です。そこで、一家の主人が死にますと、息子たちは稼《かせ》ぎに他国へ出て行って、娘たちが夫を得ることができるように、全財産を彼女たちに残してやります。」――訴訟を好んで印紙税に破産してしまうような村々では、彼は言った。「クイラスの谷地の善良な農夫たちをごらんなさい。そこには三千人の人たちがいます。おおちょうど小さな共和国のようです。一人の裁判官も執達吏もいません。村長がいっさいの事をするのです。村長は税を割り当て、各人に正当な負担を負わせ、無報酬で争いを裁《さば》き、無料で遺産を分配し、無費用で判決を下しています。人々は皆彼に服します、というのは彼は素朴な人々のうちの正しい人でありますから。」――学校の教師がいない村々には、やはりクイラスの人々の話をした。「彼らがどんなふうにやっているかを御存じですか。十二軒や十五軒くらいの小さな村では、いつも一人の先生を雇うことができませんから、その地方全体で幾人かの教師を雇っています。教師たちは、ある村には八日、ある村には十日というふうに、村々を回って教えています。彼らは市場
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