と異なる所なし。今や彼には四輪馬車を要し駅馬車を要す。以前の司教らの如く豪奢《ごうしゃ》を要す。おおこれらすべての司祭輩よ! 陛下がこれら緇衣《しい》の手より我らを解放せらるる時に非《あら》ずんば、伯爵よ、事みなそのよろしきを得じ。法王を仆《たお》せ!(そのころ万事が皆ローマと乖離《かいり》していたのである。)余はただ皇帝のためにのみ尽さんとするなり。云々《うんぬん》」
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 その代わりにこのことはマグロアールをひじょうに喜ばせた。彼女はバティスティーヌ嬢に言った。「けっこうなことでございます。閣下は他人のことからお初めなさいました。けれどやはりおしまいには御自身のことをなさらなければならなかったのです。慈善の方はすっかりもう定めてございます。それでこの三千リーヴルは私どものものでございますよ。」
 その晩に司教は、次のような覚え書きをしたためてそれを妹に渡した。

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  馬車と巡回との費用
施療院の患者に肉汁を与えるため……………千五百リーヴル
エークスの母の慈善会のため………………二百五十リーヴル
ドラギィニャンの母の慈善会のため………
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