する時にはそれに力を合わせていた。ただ召し使いのマグロアールのみが少し不平をもらした。前述のとおり司教は千リーヴルきり取って置かないので、バティスティーヌ嬢の年金と加えて年に千五百フランになるきりだった。それだけの金で二人の老婦と一人の老人とが生活したのである。
 それでも、マグロアールのきりつめた節倹と、バティスティーヌ嬢の巧みな家政とのおかげで、村の司祭などがディーニュにやって来る時には、司教はなおそれをもてなすことができるのだった。
 ある日――もうディーニュにきてから三月ばかりたったころ――司教は言った。
「これだけのものではなかなか苦しい!」
「そうでございましょうとも。」とマグロアールは叫んだ。「旦那《だんな》様は、町でのられます馬車代と教区をお回りになる費用とを、県に当然御請求をなさらないからでございます。以前の司教様方はいつもそうなさいましたのですよ。」
「なるほど!」と司教は言った、「マグロアール、お前の言うことはもっともだ。」
 彼はその請求をした。
 しばらくたって、県会ではこの請求を評議して、次のような名目で彼に年三千フランを与えることに定めた。四輪馬車代[#「
前へ 次へ
全639ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング