の茂みの中に、中華ソバ屋の小僧が、殺されていましたね。」
草の中からは、松だけしか見えなかった。
「石で頭を打ち割られていましたね。」
田中さんはただ頷いてみせた。
「誰があんなことをしたか、御存じですか。いや、あなたに分る筈はない。警察にも分ってはいない。だが、私は知ってるんですよ。私だけが知ってるんです。なぜなら、私がしたんですから。」
「ほう、あなたがね。」
無関心らしい返事だった。
彦一は腹が立った。田中さんの顔を、殴りつけるように見つめた。
「あすこに、あの小僧が立っていたんです。死神にとっ憑かれて、ぶら下ったみたいにふらりと立って、もう半分死んでいたんです。だから、私は、そいつを張り倒して、頭を石でぶち割ってやったんです。どう思いますか。」
「そりゃあ素敵だ。」
「え、素敵だというのは……。」
「とにかく、素敵だ。」
言葉の調子には何の感動もなく、田中さんは淡々と独り頷いてるだけだった。
「ばかにしてはいけません。私がしたんですよ。」
「素敵だ。」
彦一の方へは眼も向けず、一本松の方も振り向かず、草の茂みごしに遠くをぼんやり眺めている。事柄を理解していないのでは
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