た山の中の夜で、ただ私たちだけがおきていて、かまに石炭《せきたん》の火をたき、レールの上を見はりながら、汽車をごうごうと走らしています。もしなにかまちがいでもあろうものなら、何百人もの乗客《じょうきゃく》たちの命《いのち》にかかわるんです。
ところが、機関車《きかんしゃ》の小窓《こまど》から前の方を注意《ちゅうい》していた私は、思わずアッと声をたてました……。線路《せんろ》わきにぽつりぽつりついてる電燈《でんとう》の光が、とおく闇《やみ》にまぎれて、レールもみわけのつかないその先《さき》の方に、大きな眼玉《めだま》のようなヘッドライトの光をかがやかし、煙突《えんとつ》から煙《けむり》をはいて、まっくろな大きなものが、ひじょうな勢《いきおい》で走ってきます。汽車です。汽車が向《むこ》うからくるんです。
そのへんは、単線《たんせん》で、一筋《ひとすじ》の線路《せんろ》きりありませんでした。両方《りょうほう》から汽車が走ってくれば、ましょうめんから衝突《しょうとつ》するばかりです。それをさけるために、タブレットの仕方《しかた》で、停車場《ていしゃば》と停車場《ていしゃば》の間《あいだ》に
前へ
次へ
全7ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング