ばかな汽車
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)機関手《きかんしゅ》を
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)山|奥《おく》を、
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――長いあいだ汽車の機関手《きかんしゅ》をしていた人が、次《つぎ》のような話をきかせました。――
*
汽車の機関手《きかんしゅ》をしていますと、面白《おもしろ》いことや、あぶないことや、つらいことや、それはずいぶんいろんなことがありますが、そのうちでかわった話というのは――
そうですね……もうずっと昔《むかし》のことです。汽車をうんてんして、ある山|奥《おく》を、夜中《よなか》に走っていました。機関車《きかんしゃ》の前の方の小窓《こまど》からのぞきますと、右手はふかくしげった山のふもとで、左手には小さな谷川がながれていまして、二本のレールがあおじろくまっすぐにつづいています。その上を、汽車《きしゃ》は速力《そくりょく》をまして走っています。後《うしろ》の方につづいてる車では、もう乗《の》ってるお客《きゃく》たちもたいていうとうとと眠《ねむ》ってる頃《ころ》で、あたりはしいんとし
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