は一つの汽車しか通《とお》さないようにしてあります。それがどうしたまちがいか、たしかに向《むこ》うから汽車が走ってきます。
 両方《りょうほう》ともたいへん早く走っていますので、みるみるうちに近よってきました。もし衝突《しょうとつ》でもすれば、どんなことになるかわかりません。いくたりの人が死《し》ぬかわかりません。私はとっさに、汽笛《きてき》をならし、制動機《せいどうき》に手をかけて、汽車を止《と》めようとしました。火夫《かふ》たちもみな立上《たちあが》りました。向《むこ》うの汽車でも、汽笛《きてき》をならしています。
 全速力《ぜんそくりょく》で走ってる汽車をとめるのは、よういなことではありません。あまり急《きゅう》にとめますと、脱線《だっせん》してひっくりかえる心配《しんぱい》があります。両方《りょうほう》からぶっつからないうちにとめる、そのわずかなかねあいです。私たちはもう生きた心地《ここち》もしませんでした。
 向《むこ》うの汽車はすぐ近くになりました。まっくろなすがた、煙《けむり》をはいてる煙突《えんとつ》、ぎらぎら光ってるヘッドライト……車輪《しゃりん》のひびきまで聞《きこ
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