周さんは立ち上って、奥の室にはいり、電燈をつけた。俺もついて行って、上り框から覗いた。
 横手に、紫檀の大きな鏡台があった。その鏡の裏側から、周さんは小さな姫鏡台を取り出した。朱色に塗った玩具みたいなもので、どこかの土産物でもあろうか。それから、大鏡台の抽出を開けて、いろんな下らないものを取り出した。白粉やクリームの壜、化粧道具、櫛やピン、刷毛類など、たぶんもう使い古されたものばかりらしい。そして、そのうちの小さい物は姫鏡台の抽出に入れ、はいりきれない物は鏡の前に並べた。
 周さんは俺の方を振り向いて、淋しげに頬笑んだ。俺は静かに頷いた。
 周さんは有り合せの木箱を探して、姫鏡台とその他の品をつめこみ、上から紐で結えた。
 それから周さんは、裏口の方へ行って、鶴嘴と平鍬を持って来た。
 俺は合着のオーバーを着て、木箱をさげ、周さんはジャケツのままで、鶴嘴と鍬を持った。
 頷き合って出かけた。
 酔余のいたずら、でもないし、真面目な意図、でもないし、何が何やら分らないながらも、へんに俺は心が暗かった。滑稽であろうと、道化ていようと、とにかく、それを遂行しなければならない。
 途中で、木箱
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