おもしろいことが好きだから、皆で何かおもしろいことをして遊ぼうよ。そしたらお爺さんも笑い出して、出て来るかも知れないぜ」
 皆はそれに賛成しました。そしておもしろいことを考えつきました。
 めいめい、木の枝を切り取って、それを頭に巻きつけました。帯の所にも巻きつけました。手には、美しく紅葉《こうよう》したかえでの枝を持ちました。そして、林の中に散らばって、大きな木の根本に隠れました。一、二、三、と合図の声で、皆一度にぴょんと飛び出して、踊りながら歌をうたいました。

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きいのこきのこ
きんたけぎんたけどこいった
おやまのじいさんどこいった
きのこのじいさんどこいった
でーてこ でーてこう
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 踊りながら次第《しだい》に集まってきて、円《まる》く輪をつくって、くるくると廻りました。
 アハハハハハという笑い声がしました。そらッ! と皆振り返って見ると、向こうの茂みの中に、お爺《じい》さんがにこにこして立っていました。お爺さんは言いました。
「とうとうわしの方が敗けてしまった。お前達はほんとにおもしろい児《こ》だ。明日からまたきのこをたくさんはやしてあげよう。だがわしはもう決して出て来ないよ。お前達がきのこをたくさん取っていったら、村の人達も不思議に思って、皆でやって来るに違いない。わしはお前達のような子供の前に出て来るのは構《かま》わないが、大人《おとな》達の前に出て来ると、きっと悪いことが起こるのだ。では、これでお別れだ。そして、わしがいないと危ないから、もうたき火はしないがよい。それから、きのこを取るたびに、お前達を大変好きだった山の爺さんのことを、思い出してくれよ。よいかね!」
 そして白髪《しらが》白髭《しろひげ》の大きなお爺さんは、ちょっと会釈《えしゃく》をするように頭を動かしましたが、そのまますーっと消えてしまいました。
 子供達はにわかに悲しくなって、しくしく泣き出しました。すると、どこからか非常に美しい小鳥の声が聞こえてきました。その声が、「きいのこきのこ……」と歌ってるようでした。それを聞いてるうちに、子供達はまた心が楽しくなりました。山の爺《じい》さんの話をしながら、村へ帰って行きました。
 翌日の朝、皆で、「おうさむこさむ……」や「きいのこきのこ……」などを歌いながら、その林にやって来ますと、一面にきのこがはえていました。けれどもうお爺さんは、歌っても踊っても、決して出て来ませんでした。
 ただきのこだけは、その雑木林《ぞうきばやし》の中に、毎朝一面にはえていました。それを子供達は、「お山の爺さんありがとう!」と言いながら、一つひとつ取りました。いつも持ちきれないほどたくさんありました。



底本:「豊島与志雄童話集」海鳥社
   1990(平成2)年11月27日第1刷発行
入力:kompass
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年4月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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