黄金の量を添加する。かくて相方満足するまでは、決して不義な行為はされない。
事の真偽は保証の限りでないし、また立証の仕方もないわけであるが、然し、かかる暗黙の取引法が、果して実際に行われたとすれば、多少の手間はとれたろうとしても、如何にも円満に而も忠実に行われたろうということは、狡猾な現代人にも想像がつかないでもない。
*
右のような話を述べてゆけば、際限がないし、記録の調査も面倒になるから、転じて、世に知られていない秘事を一つ紹介しよう。
印度の奥、ネパール地方のヒマラヤ山間の僻地に、洞窟内に祭られてる秘仏がある。人里離れた場所ではあるが、屡々若い男女の参詣者があり、往々、年老いた善男善女の参詣者まであって、鉄柵でふさがれてる洞窟の前に跪拝し、傍の小堂から守札を頂いてゆく。
それが、仏にしては珍らしい、恋愛の守護者であり、而も結縁のそれではなくて、情熱のそれである。そして更に不思議なのは、洞窟内の仏体が、黒檀の箱に納めた二個のミイラである。
伝説は言う。――
古昔、この洞窟内に、一人の老僧が行い澄していた。数里距った村里に、天女にまごう処女がいた。或る日或る時
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