ある。
 この地方の黒人は、塩を至って大事なものとする。昼夜同じ長さの赤道直下の暑さだから、もし塩を攝取しなかったら、血液が腐敗してしまうだろうと、一般に信じられている。それで水の容器に塩を溶して、毎日それを貪り飲み、その効果で、健康と体力とを維持することになっている。
 それ故、塩の製法を余り心得ぬこの地方では、塩が重要な商品となって、高価に取引される。そして一地方で消費された残りは、他の地方に送られる。大きな塊りになされて、その二塊で駱駝一頭分の積荷となる。それが次の土地に運ばれると、一個が人間一人で持てるくらいの大きさに分割される。そして其処で消費された残りは、また次の土地に送られる。部落の強健な男子が集って、塩の一塊を頭にのせ、隊を組んで出かける。長い熊手を杖にもっていて、疲れるとそれによりかかって休息する。そしてこの塩商の一隊は、或る大河の岸までやってゆく。
 大河の岸で、彼等は頭から塩の塊りを下して、そこの草の上に一列に並べ、各自自分の塩塊にしるしをつけて、約半日行程ほど後退する。
 大河の彼岸には、他の黒人が住んでいる。偉大な体躯で、眼が漆黒で大きく、その上唇は普通だが、
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