にひろがった、美しい木で出来ていました。そのおもてがまた、小さなパンドーラの顔が映って見えるほど、よく磨かれていました。彼女には、ほかに鏡とてはなかったのですから、このことだけからでも、彼女がこの箱を大切に思わないのは、おかしいわけでした。
 その箱の縁《ふち》や角《かど》には、実に驚くべき腕前で彫物《ほりもの》がしてありました。ふちには、ぐるっと、美しい姿の男や女や、見たこともないような可愛らしい子供達があらわしてあって、それらが一面の花や葉の中に、凭《よ》りかかったり、遊んだりしているのでした。これらのいろんなものが、とてもよく出来ていて、しっくりとまとまっているので、花と葉と人とがつながり合って、複雑な美しさを持った一つの花環とも見えました。しかしパンドーラは、一二度、その刻《きざ》まれた葉のかげから、あまり美しくない顔だか何だか、いやなものが、ひょいひょいと覗いたような気がして、それがために、すべてほかのものの美しさが台なしになりました。しかし、なおよく見て、何か覗いたような気のした辺を指でさわって見ても、何もそんなものはありませんでした。本当は美しい、どの顔かが、横目でちらっ
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