箱のことばかりでした! まるでその箱に魔法がかかっていて、それがこの家にはあまり大きすぎて、それがあるとパンドーラが始終それにつまずき、エピミーシウスも同じようにそれにつまずいて、ころんでばかりいて、二人とも向脛《むこうずね》に生疵《なまきず》が絶えないとでもいったような気持がしました。
とにかく、エピミーシウスは、可哀そうに、朝から晩まで、箱のことばかり聞かされるなんて、本当につらい気がしました。殊に、そんな楽しい時代には、地上の子供達も、屈託《くったく》というものにまるで慣《な》れていなかったので、それをどうしていいか分らなかったのです。そんなわけで、その頃には、ちょっとした屈託でも、今日《こんにち》の大きな心配事と同じ位に人の心を乱したのでした。
エピミーシウスがいなくなったあとで、パンドーラはじっとその箱を見つめて立っていました。彼女はその箱のことを、百遍以上も、醜《みにく》いように言いました。しかし、さんざんけなしつけはしたものの、それはたしかに家具としては大変美事なもので、どんな部屋に置いても立派な装飾になったでしょう。それは黒ずんだ、ゆたかな木理《もくめ》がおもて一杯
前へ
次へ
全307ページ中125ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ホーソーン ナサニエル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング