して、腕をひろげて、駆けて行った瞬間から、あとはもうどんなことが起ったのか、なんにも覚えがなかったからでした。
 彼女のお父さんは、可愛い娘に、自分がどんなに大馬鹿だったかをわざわざ話す必要もないと思ったので、今ではどんなに賢くなったかを見せるだけにしておきました。そうして賢くなったところを見せるために、彼はメアリゴウルドを庭へつれて行って、残りの水をすっかり薔薇の藪の上にふりかけました。するとその利目《ききめ》がとてもよくあらわれて、五千以上の薔薇の花が、もと通り美事に咲き匂いました。しかし、死ぬまでマイダス王に、何でも金にする力を思い出させたものが二つありました。その一つは、庭の下を流れる川の砂で、いつまでも金のように輝いていました。他の一つは、今では金色になっているメアリゴウルドの髪の毛で、彼の接吻の力で彼女が金になるまでは、そんなことはなかったのでした。この色合《いろあい》の変化は、本当に前よりもよくなったというもので、メアリゴウルドの髪を赤ちゃんの時よりも立派に見せました。
 マイダス王は、すっかりいいおじいさんになって、いつもメアリゴウルドの子供達を膝にのせて、ぴょんぴょん
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