が、本当に彼から無くなったのでした。
マイダス王は王宮へ急いで戻りました。召使達は、陛下が土焼の瓶に一杯水を入れて、大切そうに持っておいでになるのを見た時、さっぱりわけが分らなかったことだろうと思います。しかし、彼のおろかさから来たわざわいのすべてをもと通りにしてくれる筈の、その水は、マイダスにとっては熔《と》かした金の海よりも貴かったのです。彼が先ず最初にしたことは、云うまでもなく、その水を手に一杯すくっては、小さなメアリゴウルドの黄金像にふりかけることでした。
彼女に水がかかると、みるみる姫の頬に薔薇色が返って来るやら――くさめをしたり、ぺっぺっと水を吐いたりし始めるやら――自分がびしょ濡れになっているのに、まだお父さんが水をぶっかけているので、びっくりするやらで――君達がその有様を見ていたら、噴《ふ》き出してしまったことでしょう!
『ほんとに止《よ》して頂戴、お父さま!』と彼女は叫びました。『あたしが今朝着たばかりのいい洋服を、こんなにびしょびしょにしてしまったじゃないの!』
というのは、彼女は小さな黄金像になっていたなんてことは知らなかったし、また、気の毒な父を慰めようと
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