見ていると、全く不思議な気がしました。川の縁まで行くと、彼は服を脱ぐ暇も待たないで、頭から飛込みました。
『プーッ、プーッ、プーッ!』と、マイダス王は水から頭を出して鼻を鳴らしました。『なるほど、これは気持のいい行水だ。これですっかり、何でも金にする力を洗い落としてしまったに違いないと思う。さて、これから瓶一杯に水を入れるとしよう!』
彼は川の水に瓶を浸《つ》けた時、彼がそれを手にする前の通りに、金から立派な、ほんものの土焼の器《うつわ》になったのを見て、心からうれしく思いました。彼はまた、自分のからだにも変化を覚えました。冷たく、固く、のしかかって来るような重みが、彼の胸から消え去って行くような気がしたのです。きっと彼の心臓も、だんだんと人間らしい性質を失って、死んだ金に変りかかっていたのですが、今度はまたもと通りのやわらかい肉に返ったのでしょう。川の岸に生えている菫の花を見つけて、指でちょっとさわって見ましたが、もう黄色に変ってしまうようなこともなく、その可憐な花が紫のままだということが分ったので、マイダスは飛び立つばかりに喜びました。つまり、さわれば何でも金になるという厄介な力
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