る力を捨てたいと思っているのか、それを聞かして下さい。』
『何でも金にする力なんてもういやです!』とマイダスは答えました。
 蠅が一匹彼の鼻にとまったと思うと、すぐ床《ゆか》に落ちてしまいました。それもやはり金になってしまったからでした。マイダスはぞっと身ぶるいしました。
『では、あなたの庭の下をしずかに流れているあの川へ行って、水に飛び込みなさい、』と見知らぬ人は言いました。『それと一しょに、あそこの水を瓶《かめ》に一杯持って来て、何でも金から再びもとの物にしたい思うものにふりかけなさい。もしもあなたが本気で心からそうすれば、あなたの欲ばりから起ったわざわいを、もとに返すことが出来るでしょう。』
 マイダス王は低く頭を下げました。そして彼が顔を上げた時には、もうその光り輝く人は消えてしまっていました。
 マイダスがすぐさま大きな土焼の瓶を取り上げて(しかし、ああ! それも彼がさわったらもう土製ではなくなりました)、川へ急いだことはすぐ君達にも分るでしょう。彼が駆けながら、灌木の間を押分けて行くと、ほかはそうでないのに、彼の通ったあとだけが、秋が来たように木の葉が黄色くなって行く有様を
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