『一切れのパンは世界中の金ほどの値打があります!』とマイダスは答えました。
『何でも金にする力ですか、』見知らぬ人はまた訊きました、『それとも一時間前のような、暖い、やわらかい、愛情のある、あなたの小さなメアリゴウルドですか?』
『おうそれはわしの子、わしの可愛い子にきまっています!』と気の毒なマイダスは、手を揉み絞りながら叫びました。『この大きな地球全体を金のかたまりにしてしまうような力と取りかえようと言われても、わしはあの子の頤《あご》にある小さな靨《えくぼ》一つもくれるんじゃなかった!』
『あなたは前よりも賢《かしこ》くなりましたね、マイダス王、』と見知らぬ人は、真面目な顔になって言いました。『なるほど、あなたの心までが、まだすっかり肉から金になってしまっていたわけではなかったんですね。もしもそうなっていたら、あなたは本当にもう見込みはなかったでしょう。しかしあなたはまだ、誰の手でも届くような所にある極く平凡なものの方が、大勢の人達がそれをほしがって溜息をついたり、争ったりしている財宝よりも貴いのだということがお分りのようですね。さあ、あなたは心底《しんそこ》から、何でも金にす
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