し、フィリーモンは彼をお忍《しの》びの殿様とか何とかいったような人と思ったわけではなく、寧ろどこかの非常な賢人で、お金やそのほか世間的な慾をすっかり捨てて、こんなきたないなりをして世の中を歩きまわって、至るところで、少しずつでも智慧を磨《みが》こうとしているのだと思ったのです。この想像の方がずっと当っているようでした。何故ならば、フィリーモンは目を上げてその人の顔を見た時、彼が一生かかって学ぼうとしても及ばないような深い考えが、その顔にあらわれていることが、一目《ひとめ》見て分る気がしたからです。
ボーシスが夕飯の用意をしている間に、その旅人達は、フィリーモンと大変うちとけて話し合うようになりました。若い方の人は、本当に、とてもよくしゃべって、なかなか鋭い、気のきいたことをいうので、いいおじいさんはもう大笑いに笑いつづけて、お前さんは近頃にない面白い人だと言いました。
『ねえ、お若い方、』彼は、二人がだんだん親しくなると、そう言い出しました、『わしはお前さんの名を、どう呼んだらいいかな?』
『そうですねえ、僕は、ごらんの通り、すばしこいでしょう、』その旅人は答えました。『だから、僕をクイックシルヴァと呼んで下されば、かなりぴったりした名だと思います。』
『クイックシルヴァ? クイックシルヴァ?』とフィリーモンは繰り返して、もしかその若い人が彼をからかっているのではないかと思って、その顔をのぞき込みました。『それは随分おかしな名ですね! そして、そのお連れの方は? やっぱりそんな妙な名前ですかい?』
『それは雷に訊いてもらわないと分らない!』とクイックシルヴァは、謎のような顔をして答えました。『雷ほどの声をしていないと言えないんです。』
これは、本気か冗談か知らないが、もしもフィリーモンがおそるおそる年上の旅人の顔を見て、いかにもなさけ深そうだということが分らなかったら、とても怖気《おじけ》づいてしまったことでしょう。しかし、こんな小屋の戸口の傍に坐ったこともないようなえらい人が、今ここに来て、ただの人間みたいにして坐っていられるのだということだけは、間違いなさそうでした。その見知らぬ人は、いかにもおごそかに、フィリーモンがいやでも心の奥底まで打明けて言ってしまわないではいられなくなるような風に口をききました。これは、人々が、彼等のいいことも悪いこともすっかり分っ
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