てくれて、しかもそれを少しも馬鹿にしないほどかしこい人に出あった時に、必ず感じる気持です。
しかし、フィリーモンは、単純な、やさしい心の老人だったので、打明ける秘密とても、あまりありませんでした。それでも、彼は今までの生活について、随分しゃべりました。その長い年月の間、彼はこの家から、二十マイルと離れたこともないのでした。彼の妻ボーシスと彼とは、若い時分からずっと、この小さな家に住んで、正直に働いて食って、いつも貧乏でしたが、それでも満足していました。彼はボーシスがどんなにいいバタやチーズをこしらえるか、そして彼が庭につくる野菜物がどんなにおいしいかを話しました。それからまた、彼等夫婦はお互に深く愛し合っているので、死別《しにわかれ》はいやだから、一しょに暮らして来たように、一しょに死にたいというのが、二人の願いだと話しました。
見知らぬ人はそれを聞いて、顔一杯に微笑しましたが、その表情はおごそかでありながら、またやさしいものでした。
『あなたはなかなかいいおじいさんだ、』と彼はフィリーモンに言いました、『そして、つれあいとしていいおばあさんをお持ちだ。あなた方の願いはかなえられていいと思う。』
そして、フィリーモンには、ちょうどその時、夕焼雲が西の空から輝かしい光を発して、空が急にぱっと明るくなったような気がしました。
ボーシスはやっと夕飯の支度が出来たので、戸口のところへ出て来て、どうも大変つまらないものしかお客様達に差上げられないけれどもと、ことわりを言いはじめました。
『もしもあなた方がおいでなさることが分っていたら、』とばあさんは言いました、『じいさんとわたしとは、なんにも食べないでも、もっといい夕飯を差上げるのでしたに。しかしわたしは、今日の牛乳は大方チーズをこしらえるのに使ってしまったし、残っていたパンも半分たべてしまったところでした。ほんとにまあ! 平常《ふだん》はなんとも思いませんが、こうしてお気の毒な旅の方《かた》が、立寄って来られた時ばかりは、貧乏が悲しくなりますわい。』
『万事うまく行きますよ。心配無用だ、おばあさん、』と年上の旅の人は、やさしく言いました。『本当に、心から、客を喜んで迎えれば、食べ物や飲み物に奇蹟が起って、どんな粗末なものでも、神の酒となり神の食物となり得《う》るのです。』
『それは喜んでお迎え申しますよ、』ボーシス
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