してろくなものにならないね、』フィリーモンは白髪頭《しらがあたま》を振りながら言いました。『本当のところ、お前、彼等が行いを改めないと、あの村の人達全体の上に、何かおそろしいことが起りそうだぜ。しかし、お前とわしとは、神様がパンの一かけらでも恵んで下さる間は、気の毒な宿のない旅の人が通りかかって、ほしいといったら、いつもその半分を上げることにしたいもんだね。』
『そうだとも、じいさん! わたし達はそうしましょうとも!』ボーシスは言いました。
この老人夫婦は――いいですか――まるで貧乏で、食べて行くためには、かなりひどく働かなくてはならなかったんですよ。フィリーモン爺さんは、お庭で一生けんめいに働きました。一方、ボーシス婆さんは、いつもいそがしそうに糸をつむいだり、おうちの牛の乳から少しばかりのバタやチーズをつくったり、そのほか、何や彼《か》やと家の中で立働いていました。二人のたべものは、パン、牛乳、お野菜、それから時々、おうちの蜜蜂の巣から取った蜂蜜がすこし、たまには、おうちの壁になった一房の葡萄、といったようなもので、ほかにはほとんど何もありませんでした。しかし、彼等はこの上もない親切な老夫婦で、戸口に立つ、疲れ切った旅人に対して、一きれの黒パンや、一杯の新しい牛乳や、一匙の蜂蜜をことわるよりも、いつでも喜んで自分達の御馳走を抜きにするという風でした。彼等は、そうした客には、何かしら神聖なところがあるような気がしました。だから、そうした人達を、彼等自身よりも大事に、十分にもてなさなければならないと思ったのです。
彼等の小さな家は、半マイルばかりの幅の、くぼんだ谷にある村から少しはなれた、小高いところにありました。その谷というのは、まだ世界が新しかった昔の時代には、おそらく湖の底にでもなっていたのでしょう。その湖には、魚が深いところをあちこちと泳ぎまわり、岸の方には水草が生え、木や丘はその広い、静かな水面に影をうつしたことでしょう。しかし、水がだんだんと退《ひ》いて行ってしまった時、人達はそこの土をたがやし、そこに家を建てました。そして今では地味の肥えた所となって、ほんの小さな谷川のほかには、昔の湖のあとはなんにも残っていませんでした。その谷川は、村のまん中をうねうねと流れて、村人達がその水を使っていました。この谷の水が退《ひ》いてからは、もう随分久しくなるので
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