才で、世の中を胡魔化して、一生貧しく賤しく送たものばかり多かつた、それで今の小説家も、やつぱりさうだらうといふではないが、房雄は只さへあゝいふ軟弱な質だから、なる丈軍人か何かを友人にして、さういふ風の人にはあまりつきあはせたくないとおもふが……何とか遠ざける工夫をしたいものだがの」落度の意味のわかりしに、三太夫やつと落つき「御意で御座います、只見うけましたところでは放蕩山人もいたつてよい方のやうで御座いまするが御前の思召をうかゞへば、また若殿様の御身の上も案じられますから、猶あの方の善悪を聞きたゞして、もしもお為にならないやうな事が御座いましたら、なるべくお腹立にならないやう、若殿様に御意見を申上ませう」「イヤ人間のよしあしにかゝはらず、おれは小説家ときくと、実に身ぶるひがする程きらひだから、ぜひ遠ざけてもらひたい」。
 折から殿の愛妾お露の方、しづかにこゝに入りきたりて横目でぢろり三太夫をにらみしが、電光石化首ふりむけ、殿を見る目はきはめてやさしく、したゝるやうな媚をふくみ、いひにくさうにくごもりながら「アノ……只今ちよいとお次で伺ひましたが……アノ…‥御前様」殿はわるいところへきた
前へ 次へ
全35ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田沢 稲舟 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング