今宮はわらひながら「ナニお好だつてわるいとは申ません」「イヽヱ好では御座いませんがあなたこそ私みたやうな陰気なものは、おきらひで御座いませう」「なんの私は女のあらつぽいのは好きませんから……」「うそ仰り遊せ……しかし私は……私はあきらめてゐますから」不思議さうに糸子を見て「なにをあきらめなさつたんです」「なんでもようございますの」
(二)
腰元のお京と、御寵愛のポチをともにつれて、こんもり繁りし青葉の木蔭、運動がてら散歩せんとて、お庭にお出遊ばされし御前の、まだ五分間もたゝぬのに、早くもお居間におかへりありしのみならずあはたゞしくお召とはなにごとならんと、三太夫いそぎ御前にすゝみいでゝかしこまれば、いつになきふけうげなお顔色にて「これ杉田、よんだのは外でもないが、今はなれにきて房雄と話をしてるのは、少しも聞おぼえのないやうな声だつたが、どなたかの」はてな妙なことをお聞き遊すと思ひながら「ハツ若殿様が此頃から御懇意に遊す小説家、放蕩山人と申方で御座います」ときいて、御前は眉をひそめ「ン小説家か、宝塔山人とは仏くさい名ぢやが……」「御意で御座います、歌舞の菩薩に縁のありさうな、
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