ハイよく時々いらつしやいますよ」「随分評判の方ですが、さうですか実際…」「ハイしかし世間の人はとかくわるくいひますが、あの方があんなにおなりなさつたのも全く社会とかの罪でせうよ、……幼少い時からよくひどい目にばかりおあひなさつたさうですから」「ハハアさうですか……いや女の小説家なんてへものは、ほんとに、かあいさうなものですよ少し自分の思ふ事を筆にまかせて書く時は、すぐおてんばだのなんのといはれますからね……それをおそれてかきたい事もかゝずにゐるのは、つまり女らしいのなんのとほめられたい慾心と、世人の評には屈しないといふ勇気のないよりおこるんですが、この花園女史は決してそんな臆病ではないやうですね」「さうで御座いますよ、ほんとにお話でもお遊びでも、あまり活発すぎて、丸で男の方のやうで御座いますもの、そのかはりさつぱりして同じ事などぐづ/\くりかへして、泣たりくどいたりなんぞは一度もなさつた事御座いませんの」「ハハアなる程さうですかね……ぢや私みたやうに、不活発な女のやうな者をあなたは屹度おきらひでせうウフフフ」なに故か糸子はあはてゝ顔をあからめ「アラ私は花園女史をすきだとは申しませんよ」
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