の名みたやうですね……オヤ今日は大変船がみえますね」「あれは皆漁夫の船ですよ」「マア大変面白さうですね」「なに家業となつたら別に面白くもないでせうよ、我々小説家なんぞの道楽商売でさへ、随分つらい事が多いんですもの」「オヤあなたもつらい事があるの」「ありますとも」「どんな事」「どんな事ツて、さうとりとめた事でもないんですが、はたから見たやうに気楽なものではありませんよ」「そりやアやツぱりさうでせうね」何かしばし考へて「それはともかく、しかし今日の母の手紙の様子では、余程ひどくおうちの方からおかけ合があツたものと見えますね」「さうですね」と心配な顔色、今宮は溜息をつきながら「それで母も妹と二人きりで、非常にこまるから、どうか帰ツてくれろツて、怒る所か頼むやうな手紙ですもの、私の母は無論ゆるしてくれませうが、只おぼつかないのはあなたの御両親ですね」糸子はしほれながら「私は両親がゆるしてくれないなら、それで、よう御座いますから人には何と言はれたつてかまひません、只あなたのお側にさへ居られるなら、どうでもいゝと思ひますよ、ですからおかへり遊すのがお否なら、いツその事あなたのおツ母様と、花子様とを
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