て「ほんとにお前の器量なら、女のさわぐのも無理はないよ」「なんだねくだらない事を……それよりかきツとうまくいぢめなければいけないよ」「あいよ承知だよ」折から格子をがら/\あけて、お露は今しもみがきたてゝかへりきたるを、見るより母は目に角たて、我子に一寸目をくばせし、手なみを見よといひ顔に「大変長かツたね、此忙しいのに何をぐづ/\してるんだへ、まいにち/\化粧三昧に大事の時間を費して、女郎芸者ぢやあるまいし、見ツともない、着物をずる/\引ずつて……」いつもとても意地わるけれど、今日はあまりのするどさに、お露は殆ど縮みあがり、小さくなりておそる/\「おツ母さん、かんにんしててうだい、つひお向のみいちやんと御一所になツたもんですから」とがり声にて「また俳優の噂にでも夢中になツてゐたんだろう、馬鹿々々しい……オヤ/\大変美しくおつくりができましたね、丸で粉なやの盗《どろぼう》のやうですよ、オホ……オヤこのこは泣くよ、何が悲しいんだへ、……しかし思へば尤だよ、こんな働のないものを亭主に持て、ろくに物見遊山もできず、おまけに私のやうな、皺くちや老婆の世話までするかとおもツたらさぞなさけなくなるだろ
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