ではあなたいつものところへお出なさいよ、此頃ちつともいらつしやらないもんだから、きのふもおいらんからおことづけが御座いましたよ、ほんとに今宮さんは薄情ですね」得意になりてすつぱぬかれて、始めてのつもりの化の皮、血のでるまでにはぎとられ、山人大に閉口せしが、今更どうする事もならず、足のくせにて、うっかり馴染の茶屋にきたりしを、心のうちに後悔しながら「フヽヽヽいゝ加減な事ばかり、何でおれに馴染の女なんぞあるものか……然しどこに仕様ね」「オホヽヽお馴染みかどうかはぞんじませんが、どこに仕様なんてそんな浮気を仰らずに、いつもの尾彦になさいよ」「ぢやさうしやうかね……あなたいゝですか」房雄はなれぬあそび故あまりおもしろくはおもはねど、すでに同行せし上は、今更否ともいはれねば仕方なしに「ハアどこでもいゝんです」ときいてお神は如才なく、消炭をよびて「あの――お松や、お前尾彦へ行つて、お座敷を見てきておくれ」女は手をついて「ヘヱかしこまりました」といひつゝ一寸頭をあげて、今宮を見「オヤどなたかとぞんじましたら、マア旦那でいらつしやいますね、此頃は大変お見かぎりで御座いましたねヱ」お神はにこ/\笑ひなが
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