ら、如何にも躊躇したように答えた。
「精確《しっかり》とは存知ませんが、四百フランも御座いましたら、どうかなるでござんしょう」
 夫は少しく青くなった。彼は翌年の夏あたり同僚とナンテルの方面に銃猟に行くつもりで、そのためにかねて銃を買うつもりで貯えた金が四百フランばかりあるのだ。
 夫は思い切ったという調子で、
「よし、それならお前に四百フラン遣るから、好きな衣服を買ってくるがいい」
 夜会の日が近づいた。が、彼女は如何したものか沈み勝ちで、何かたえず心配しているようにみえた。服装《なり》もチャント[#「チャント」に傍点]、準備《ととの》ったのである。夫は不思議にたえない。で、ある晩に彼女にたずねた。
「如何した、この二、三日おまえの様子が如何もへんだよ。また、なにか心配なことでもあるのかね?」
「衣服はこれでよいとしても、飾りになる宝石が一ツだってある訳ではないし、私いっそ、もう夜会に参ることはよしましょう」
「それなら、花でもつけてゆくさ、時節柄キット[#「キット」に傍点]よく似合うよ。なに、十フランもあれば見事な薔薇が買えらあね」
「嫌ですよ、立派な貴婦人《かたがた》の前に出て、
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