貧乏くさく見える位恥ずかしいことはありませんからね」
 彼女は中々承知しない。
 夫はなにごとか思いついたらしく、
「お前も余程馬鹿だねえ。それ、お前の親友のフオレスチャ夫人ねえ、あの人の処へ行けば飾り位如何かなりそうなものだねえ、え?」
「真実《ほんとう》に如何したらいいでしょう。私、今までちっとも気がつかなかったわ」
 さも嬉しそうに彼女は叫んだ。
 翌日、彼女は早速親友の処をたずねて、事情を話した。
 フオレスチャ夫人は殊の外同情して、破璃戸の填っている戸棚から大きな宝石の函をとり出してロイゼルの前に開いた。
「さあ、どれでもお気に召したのを」
 彼女はまず腕環をみた。それから真珠の頸飾り、ヴェネシアの十字架、その外精巧を尽くした金銀宝石の種々の飾りを一々手にとってみた。そして、鏡の前へ立って、それを身体の彼処此処《あちこち》へつけて眺めまわした。これかそれかと定めかねてしばし躊躇した。
「もうこの他に御座いませんか?」と口癖のようにいいながら、
「いいえ、ないことも御座いませんが、如何いうのが全体お好きなのやら」と夫人は曖昧な返事をする。
 彼女はとうとう黒い箱の中に入っている
前へ 次へ
全19ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
モーパッサン ギ・ド の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング