のをあげよう」
彼女は荒々しく封筒を剥して、中から印刷された一枚の紙を取り出した。それは夜会の招待状なのである。
「来る一月十八日月曜夕刻より官宅において舞踏大会相催し候ついては貴殿並びに御令閨にも万障御繰り合わせの上御出席の栄を得度右および御案内候也」
 宛名は二人の名前になっている。そして麗々と官長夫妻の署名がしてある。
 喜ぶと意《おもい》の外、彼女はその招待状を食卓の上に投げつけた。そして、如何にも蔑すんだ様子を面にあらわして、
「貴郎《あなた》、そんなものを私に見せて一体如何しろとおっしゃるんですの」と唸いた。
「お前がさぞ喜ぶことだろうと思ったからさ。この頃お前も滅多に外出《で》たことがないし、丁度いい機会《おり》だと思うがね、招待状を貰うにはこれでも一通りや二通りの苦心じゃあなかったのさ。同僚の者など誰一人行きたがらぬものはないが、これを貰ったのはごく少数《わずか》の人なので、たかが属官風情の私などが出席できるというのは、殆ど異例といってもよい位なものさ。とにかく官界の連中が総出というのだそうだからねえ」
 彼女は焦燥《じれっ》たそうな眼つきをして、
「貴郎は一体私に何を
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