音がしなければならないはず。ヒョット[#「ヒョット」に傍点]したら馬車の中じゃあないか?」
「ハイ、多分――あの馬車の番号を覚えておいでですか」
「否《いいえ》、お前も覚えておりはすまい?」
「ハイ」
二人は互いに顔を見合わせてしばし呆然としていた。呆然としていたって仕方がない。ロイゼルは今しがた脱ぎ棄てた衣物をまたひっかけた。
「私は今帰ってきた道をすっかり探してこよう。あるいは見つからないものとは限るまい」
で、彼は出かけた。彼女は夜会の服装で力なさそうに椅子によりかかった。胸の中は種々雑多な想いが乱れに乱れ、頭の中は火のようにほてっていた。
夫は七時頃ようやく戻ってきた。彼はなんにもみつけなかったのだ。
警察に訴える、新聞に広告をする、馬車会社に行く――このようなことが僅かな望を繋いだ。
彼女は終日《ひねもす》この恐ろしい災難をとやかく思い煩うて、恐ろしさにうちわなないていた。
ロイゼルは青褪めたキョトン[#「キョトン」に傍点]とした顔つきをして夜遅く帰ってきた。無論、頸飾りはめっからなかったのである。
「オイ、お前はとにかく、友人の処へ手紙をやったらどうか、頸飾りの
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