釦金《かけがね》が壊れたから直しにやってあるとでも書いて、――え、その内には如何にか工夫のたつまいものでもない」
 彼女の頭は錯乱して、手紙の文句をも考えることも出来ぬ。夫がいうがままに彼女は半ば無意識にその言葉を紙に写した。
 その週の終わりには二人ともまったく絶望して仕舞った。
 彼女に五ツ年上のロイゼルは先口を開いた。
「如何にかしてあの飾りを返さなければならない」
 で、翌日飾りの入っていた箱を持って宝玉《たま》屋に行った。幸い宝玉屋の名が箱に記してあったので――宝玉屋は帳面を色々と繰ってみた。
「その飾りをお売り申したのは私の店ではございません、箱だけは慥かにお誂え申した覚えが御座いますが!」
 こう宝玉屋は無雑作に答えた。
 それから二人はおよそ巴里中にある、ありとあらゆる宝玉屋の店頭《みせさき》に行立《た》った。失なした飾りに類似の品を求めて歩いた。身体は綿の如く疲れきって、胸はいうべからざる苦悶を以てみたされた。
 探し廻った甲斐があって、二人はパライ・ローヤル街のある宝玉屋の店にようやくにかようたダイヤモンドの頸飾りを見つけだした。その価は四万フランであるとのことであ
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