いる間は、わたくしの劇しい苦しみは、気でも狂うかと思われるほどでしたが、それは、いわば胸を抉《えぐ》られでもするような、肉体的な苦しみでありました。
やがて彼女の亡骸《なきがら》が墓穴に移され、その棺のうえに土がかけられてしまうと、わたくしの精神は、突如として、はッきり冴えて来たのであります。わたくしは怖ろしい精神的な苦しみを悉《つぶさ》に甞《な》めたのでありますが、その限りない苦しみを体験するにつけ、彼女がわたくしに与えてくれた愛情がますます貴重なものに思われて来るのでした。と、わたくしの心のなかには、
(もう二度と再び彼女には会えないのだ)
こういう考えが湧いて来て、どうしても離れません。そんなことを朝から晩まで考えていてごらんなさい。人間は気がへん[#「へん」に傍点]なってしまうでしょう。
考えてもみてください。いまここにあなたがたが身も心も打ち込んで愛している、かけがえのないただ一人のひとがいると致します。世間広しといえども、そのひとと同じような第二の人間などはあろうはずもないのであります。しかして、そのひとは身も心もそッくりあなたに捧げ、世間の人が「恋」と云っている、あ
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